第1回「教育の情報化って何?」

堀田龍也先生連続インタビュー

「教育の情報化」という言葉が、語られるようになって久しい。学校関係者も教育行政関係者も、「これからは教育の情報化が大切だ」と口を揃える。だが、「教育の情報化って何?」「何故今必要なの?」「子どもにどんなメリットがあるの?」「学校現場は何をすればいいの?」と問われると、答えに窮する人も多いのではないだろうか。「教育の情報化」という耳障りのいい言葉が、漠然としたイメージのまま一人歩きしている感がある。そこでチエルマガジンでは、独立行政法人メディア教育開発センター准教授の堀田龍也先生に、解説を依頼。「教育の情報化」を、明快かつわかりやすく語っていただいた。そのインタビューを、6回連続で本誌及びチエルWebマガジンにてお送りする。初回となる今回は、ずばり「教育の情報化」とは何かを考える。

「授業の情報化」と「学校の情報化」

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「教育の情報化」を整理した分類図

 「情報化」という言葉は、今や教育に限らずさまざまな分野で使われています。たとえば、「行政の情報化」。インターネット上で確定申告や転入届を提出したり、白書をWeb上で公開したりと、いわゆる「電子政府」が国の主導で進められています。「クルマの情報化」も、身近な例ですね。目的地をカーナビに入力すれば、最新の渋滞情報と照らし合わせて最短のルートを案内してくれる便利な世の中になりましたが、これも情報化の恩恵と言えるでしょう。
 みなさんもインターネットで乗り換え検索をしたり、ネットショッピングを楽しんだりすると思いますが、これも「情報化」の一つ。いわば「生活の情報化」であり、今や社会全体が「情報化」されつつあると言っていいでしょう。
 このような時代ですから、「教育の情報化」は必然であり、避けては通れない道です。
 では、「教育の情報化」とは何でしょうか? 私は、大きく2つに分けられると考えます。一つが、「授業の情報化」。そしてもう一つが、授業以外の「学校の情報化」です。

「授業の情報化」その①
「授業でのICT活用」

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パソコンで作成したフラッシュ型教材を活用して、授業を行う。紙の教材に比べて作成や編集加工が容易で、子どもの学習進度に合わせて表示速度や順番、内容を調節できる。大きく映し出すことで、子どもの目線を集め、意欲を高める効果も。フラッシュ型教材は、ICTで授業を改善する好例だ。※写真協力:宮城県登米市立北方小学校

 「授業の情報化」と聞いて、プロジェクタやパソコンといったICTを活用した授業を連想する人は多いと思います。確かに、これも「授業の情報化」ではありますが、これが全てではありません。
 「授業の情報化」は、大きく2種類に整理できます。第一が、今述べたような「授業でのICT活用」です。プロジェクタや実物投影機、ノートパソコンなどのICT機器、動画資料やフラッシュ型教材、練習問題ソフトといったICTで作った教材を、授業で活用するのです。
 ICTが学校現場に入り始めた当初は、「ICTを使うこと自体が目的」かのような授業事例も多く見られましたが、これは間違った使い方です。授業でICTを使うのは、普通教室での教科授業を、よりわかりやすく改善するのが目的。子どもへの「教え方」や「指導方法」を、ICTによってを工夫・向上するのがねらいです。教える内容まで変える必要はありません。今まで通りでもいいのです。
 詳しくは第2回のインタビューで述べますが、黒板とチョーク、紙ベースの教材だけを使った従来型の授業に比べ、ICTを活用することで子どもは意欲的に楽しく学び、より理解が深まり、定着するようになります。

「授業の情報化」その②
「情報教育」

 「情報教育」を一言で言うなら、「情報化社会を生きるために必要な力を養う教育」と、まとめられるでしょう。一昔前に比べ、社会は激変しました。かつては新聞記者や作家、専門家といった一部の人間しか、公に向けての情報発信はできませんでしたが、今では誰もがインターネットを通じて情報を発信できる時代です。この情報化社会を生き抜くには、氾濫する情報の荒波から必要な正しい情報を見抜き、整理し、そしてさまざまなメディアを使ってわかりやすく上手に伝える力が欠かせません。
 「情報教育」については別の回で詳しく述べますが、社会が変化すれば教える内容も変わらなければいけないことを、心に留めておいてください。

「学校の情報化」その①
「授業準備の情報化」

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今やインターネット上には、さまざまな教材データベースが作られている。教師グループによるデータベースもあれば、行政や企業が提供しているものまで多様。写真は、チエルが提供する「CHIeru.e-Teachers」(http://eteachers.chieru.net/web/)のフラッシュ型教材データベース。小学校及び中学校の各教科で使える教材や実践事例が蓄積されており、ダウンロードすればすぐに使える。

 「授業の情報化」について述べてきましたが、教壇に立って授業を進めることだけが教師の職務ではありません。授業の準備や校務など教師が果たすべき仕事は数多く、しかも近年ますます増えつつあります。このような時代では、「学校の情報化」も欠かせません。
 その一つが、「授業の準備」です。授業計画を練り、指導方法を工夫し、教材を準備する。かつては同僚の先生にアドバイスを請い、紙を切り貼りするなどして教材を作っていましたが、この「授業の準備」も情報化の波で様変わりしつつあります。
 たとえば授業計画を立てるにしても、今やインターネットを使って全国の先生方の優れた実践事例を参考にできるようになりました。授業力のある先生方がホームページやブログで発信している効果的な指導方法に触れて、自分の授業を改善し、授業力を向上するのが容易になったのです。
 教材の準備も、便利になりました。インターネットから資料映像やデータを収集してパソコンで教材を作ったり、教育系サイトに掲載されている教材集からダウンロードして使ったりと、教材作りの幅も拡がりました。チエルのホームページで提供しているフラッシュ型教材データベースも、その好例ですね。ICTを使うことで、授業のねらいに合致した最適かつ効果的な教材を、従来よりも短時間で準備できるようになってきています。

「学校の情報化」その②
「校務の情報化」

 現在の教師は、校務に追われています。しかも年々新たな仕事が増え続け、多忙化に拍車がかかっている状況です。なのに子どもや保護者など学校外の方には見えづらいため、忙しさを理解してもらえないといった悩みも生まれてきています。
 限られた時間を効率的に使わなければ、校務もこなせませんし、授業準備の時間も確保できません。そこで、「校務の情報化」です。成績処理をはじめ、出欠席記録や備品の管理などを、校内LANでつながったパソコンで行うことで、作業時間を短縮でき、情報の共有も容易になり、仕事がはかどります。今後も教師の多忙化が進むことを考えれば、「校務の情報化」による効率化は必要不可欠と言えるでしょう。

「学校の情報化」その③
「学校の情報公開」

 一昔前の「学校の情報公開」と言えば、学年便りや学級便りといったプリントぐらいしかありませんでした。発行ペースも週イチ、月イチ程度が限界で、せっかく配布しても子どもが親に渡すのを忘れたり、保護者もつい読むのを忘れたりと、伝えたい情報を伝えたいときに伝えられないもどかしさがありました。
 この「学校の情報公開」でも、「情報化」が効果をあげています。その好例が、学校ホームページやブログです。ICTを使えば、日々の出来事を、画像や資料などを交えつつ、リアルタイムで発信できます。紙のプリントに比べて発信の手間もコストもかからないので、教師の負担も軽減され、頻繁な発信が可能になります。
 また、保護者や地域の方々が「学校では今日こんなことを学んだのか」「今こんな学習活動をしているのか」と知ることで、学校との距離感が縮まり、信頼関係が生まれます。
 企業はもちろんのこと、国や自治体にも情報公開が求められる時代。行政サービスの一環として、学校も積極的に情報公開していくべきでしょう。

情報化を成功させるには
教師1人1台のパソコンを

 「学校の情報化」を成功させるには、環境を整備しなければなりません。
 まず、教師1人1台のノートパソコンをそろえること。考えてもみてください。インターネットを使って授業実践例や教材を収集したり、校務の書類を作るのに、自分専用のパソコンが無いととても不便ですよね。パソコンが空く順番を待っていては、貴重な時間が無駄になってしまいます。
 自分のスケジュールに合わせて自由に作業できてこそ時間を有効に使えるし、効率化も図れる。そのためには、一人ひとりに専用のパソコンが整備されるべきです。
 校内LANやグループウエアなどの管理ソフトといった、仕組み作りも欠かせません。校務書類や個人成績などの情報をネットワーク上で共有し、入力した情報が即座に反映されるといった、「紙」では得られないICTならではのメリットがないとみんな使いませんし、情報化する意味がありません。
 個人情報保護の観点からも、ネットワークの構築や使用ルールの策定といった仕組みづくりがとても重要です。たとえば成績処理に関する情報取扱規ルールを決めて、それを実現できる環境を整える。パソコンで成績処理するところまでは同じでも、人によって紙にプリントアウトしたり、USBメモリに保存したり、自宅にメールで転送したりとバラバラでは、個人情報が危険にさらされます。統一されたセキュアな環境を整備してこそ、個人情報の安全も守られるのです。
 せっかくネットワークを作っても、みんなが好き勝手に使っていたのでは、効率化も進みません。「一番新しいファイルは、どのフォルダに、なんて名前で保存しました?」と尋ねて回るなんて、ナンセンスですよね。

自治体によって「格差」が
生じさせないためには

 「授業の情報化」と「学校の情報化」。この2つを実現するために、国はICTの整備と政策づくりを進めています。教師1人1台のパソコンと校内LANの整備を進め、ICTを活用した授業の成功事例を公開して普及を図り、教員のICT活用指導力の基準を明確化するなど、数々の取り組みを行っています。
 ただ、国がいくら旗を振っても、県や区市町村といった自治体が動かなければ、公立学校の環境整備は進みません。今や日本も地方分権の時代ですから、各自治体が独自に判断して注力する点を決めるのは当然なのですが、その結果、自治体によって格差が生じて来ています。
 たとえばA市の小学校はICT環境が整い、授業でもICTを活用してわかりやすい授業を行い、校務の効率化も進み、ホームページで情報発信を行っている。その一方で、B市の小学校は依然として黒板とチョーク主体の授業を行い、増え続ける校務に追われ、情報公開も進んでいない。こういった格差が出てきています。
 A市とB市のどちらがいいか、考えるまでもありません。私たちが暮らしている社会自体が情報化し続けているのですから、教育の情報化は必然です。

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学校ホームページは、今や情報公開の重要チャンネル。教職員が学校紹介や授業計画などを報告するだけでなく、子どもが日々の出来事などを発信するケースも増えており、「ホームページのおかげで、学校が身近になった」と喜ぶ保護者も多い。※写真は、宮城県登米市立北方小学校のホームページ。

 格差を是正するには、教育の情報化の成功事例を広め、その効果や大切さを知ってもらうこと。「教育の情報化は必要なんだ」と実感すれば、自治体も予算を投入して力を入れるようになり、格差もやがて無くなると考えています。

 「教育の情報化」について、例を挙げながらわかりやすく総論を解説してくれた堀田先生。第2回では、「ICT活用でわかる授業」をテーマに語っていただきます。