「教育の情報化」の"現在"と"未来"

「フューチャースクール」は“次の学習指導要領”への試金石

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玉川大学教職大学院
堀田 龍也 教授

 今年6月、教育界に激震が走った。総務省が進めてきた『フューチャースクール推進事業』が、省庁内の事業仕分けで廃止判定を受けたのだ。廃止判定の論拠は、「なぜ教育分野で総務省が事業をするのか」「あとは自治体に任せればいい」というものから「一人1台のタブレットPCを整備するのは財政面から現実的ではない」など、様々。中には首をかしげざるを得ない意見もあった。
この事業が今後どうなるのかは現時点では不透明であるが、フューチャースクールを巡る様々な議論を俯瞰してみると、誤解や曲解をしている人が未だに多いのではないかという懸念を抱く。
そこで前号に引き続き、玉川大学教職大学院の堀田龍也教授に、フューチャースクールの目的や意義について整理していただくとともに、日本の「教育の情報化」の“今後”について、語っていただいた。

フューチャースクールは、“次の学習指導要領”のための施策

 フューチャースクールの廃止判定は、各方面で議論を巻き起こしました。私も、賛否両論、様々な意見を耳にしました。それらの議論や意見を聞き、多くの方がフューチャースクールについて“大きな誤解”をしていると、改めて感じました。
その“大きな誤解”とは何か。フューチャースクールは、今すぐに一人1台のタブレットPCを学校に導入しようとしているのではありません。2020年頃に実施される“次の学習指導要領”のための実証研究事業であり、2020年以降の教育はどうあるべきかを研究するための事業なのです。これを誤解している人がとても多い。フューチャースクールに関わっている人の中にも誤解している人がいるのではないかと、ドキッとすることがあるほどです。
「大型テレビなどが入ってきてやっとICTを使い始めたのに、次は一人1台のタブレットPCに取り組めといわれても、今すぐになんて無理!」という反対意見が出てくるのも、この“誤解”のせいです。今すぐの話ではないのです。「どうせ入れるなら、タブレットPCではなくiPadにすべきだ」という人もいますが、どんな機器が最適なのかを含めて現在検証中なのです。タブレットPCを全国の学校に導入することが決定したわけではありません。検証結果によっては、2020年以降に、iPadの次世代機、いや次々世代機が導入される可能性もあるわけです。
これほど多くの方が“誤解”しているのは、2009年から『スクールニューディール政策』で全国の学校に大型テレビや電子黒板などが整備されたことが、強く印象に残っているからではないでしょうか。『スクールニューディール政策』では、教育現場のICT環境の整備が、大規模かつ一斉に進められました。だから先生方は、「電子黒板の次はタブレットPCが入るのか!」と、とらえてしまっているのかも知れません。
しかし、これは誤りです。『スクールニューディール政策』によるICT環境の整備は、“現在の学習指導要領”のための施策です。一方、フューチャースクールは、“次の学習指導要領”のための施策なのです。

「教育の情報化」の取り組みを“二つの流れ”に分けてとらえる

 現在行われている「教育の情報化」の取り組みや施策は、大きな二つの流れに分類することができます。
一つは、現在の学習指導要領の主旨を踏まえた、今日のための「教育の情報化」の取り組み。もう一つは、次の学習指導要領で「教育の情報化」をどうすべきかを検討するために行われている、実験的かつ挑戦的な取り組みです。
前者は、現在の学習指導要領で求められている「授業でのICT活用」や「情報教育」、「校務の情報化」をより効果的、効率的に行うために、実践や研究を行っている先生方やプロジェクトが該当します。「フラッシュ型教材」を使った実践・研究や、実物投影機や校務ソフトを使った実践・研究もその一例。『スクールニューディール政策』も、これに該当します。
一方、後者にあたるのが、総務省の『フューチャースクール推進事業』や文部科学省の『学びのイノベーション事業』などです。“今の学習指導要領”で上手にICT活用等を進めるための実践・研究と、“次の学習指導要領”のための実証実験は、ラインが異なるのです。“今のため”と“未来のため”、この二つのラインに分けて考えると、わかりやすいでしょう。
この二つのラインを混同してしまうと、フューチャースクールへの誤解や否定的な意見につながり、無用の混乱を招いてしまいます。今回、廃止判定が下ったのも、この誤解が根底にあると感じます。日本の「教育の情報化」がこれまでどのように進められてきて、今現在どういう位置にあり、これからどこへ向かおうとしているのか。正しい認識を広めることが大事だと痛感しています。

「教育の情報化」の現状と“現在”の学習指導要領の特徴

 「教育の情報化」が今現在どういう位置にあるかは、現在の学習指導要領を見ればよくわかります。
みなさんもご存知の通り、ここ数十年は学習指導要領が新しくなるたびに、学習内容は減り続けていました。身に付けるべき知識を減らした分、考える時間を多く取ろうという方向で進んできたのです。しかし、日本の子どもの学力低下が社会問題化したことで、風向きは大きく変わりました。特にOECDのPISAで日本の子どもの学力が低下しているとマスコミが大々的に報道したことで、「学力向上に努めるべき」との世論が強くなりました。
そこで、文部科学省も方針の転換に踏み切りました。子どもに考えさせることを大事にしてきたものの、その結果しっかり教えることがおろそかにされたのではないか。教えずに、何でも子どもに考えさせようとしていたのではないか。そのような反省の結果、学習指導要領の基本的な考え方を見直そうということになり、現在の学習指導要領では久しぶりに学習内容が大幅に増えたのです。
今回の学習指導要領では、教えるべきことはしっかり教えて知識の定着を図るとともに、身に付けた知識を活用する時間もしっかり設けることになっています。学習内容が増えると同時に、習得した知識を活用する時間も取らなければいけないのですから、授業時間が絶対的に足りなくなることは容易に想像がつきました。しかし今さら学校5日制をやめるのも現実的ではありませんし、授業時数を増やすのにも限界があります。そこで、学習環境や指導方法などを工夫することで、効率化できるところは効率化して、時間をやりくりしようと決まったのです。
その手段の一つが、「授業でのICT活用」。習得の場面でICTを使ってわかりやすく教える。ICTで繰り返し学習を行い、知識定着の効率化を図る。そうすることで節約できた時間を、知識の活用の時間や言語活動の時間に回してもらう。これが、現在の学習指導要領の基本的な考え方です。
そのための“準備”が、現在の学習指導要領が実施される何年も前から進められてきました。子どもたちに身に付けさせたい力を精査し、そのために必要な指導方法を研究・提示。同時に、その指導を行うのに必要なICT環境の整備も進めました。その一つが、『スクールニューディール政策』でした。現在の学習指導要領が実施されるのに先んじて、国は2009年から同政策を推進。およそ4000億円もの予算をかけて、電子黒板や実物投影機などのICT環境を整えたのです。

現在の学習指導要領の成果は、早くも出始めている!

現在の学習指導要領もスタートしたばかり。中学校は今年からの実施ですし、高校は来年度から始まります。しかし、前倒しでICT環境の整備やICT活用に取り組んできた自治体や学校では、早くも成果が出始めています。
まず、授業でのICT活用が浸透し、日常化しています。たとえば実物投影機。「大きく見せて、教える」という手法とその効果は、昔から周知の事実でした。かつてはOHPや模造紙で行っていた手法を、実物投影機というICT機器に置き換えただけなので、授業との親和性も高く、授業計画や指導を変えなくてもすんなりフィット。またICTが得意でない先生でも簡単に使えるので、新たに取り組む先生も増え続けています。
「フラッシュ型教材」も、既習事項の繰り返し学習などで活躍しています。繰り返し学習は子どもが飽きがちですが、フラッシュ型教材を使えば、子どもたちは意欲的に、集中して取り組めます。しかも授業の導入などで日常的に行いやすいので、既習事項の定着に効果が上がっています。
授業に“変化”も出始めています。担任の先生も気が付かないほど見た目にはわずかな変化ですが、実りの大きい変化です。
たとえばある学校での出来事。毎日授業で使っていた実物投影機が、ある日突然故障してしまいました。この突発事態に、先生は「実物投影機なしで、どうやって授業すればいいんだ?!」と途方に暮れてしまったそうです。子どもたちに教えるときはまず実物投影機で映し、子ども同士で考えを発表し、共有するときもノートを実物投影機で映し……と、実物投影機は授業に欠かせない存在になっていた。それが急に故障してしまったので、呆然としてしまったのです。普段どれだけ実物投影機を活用していたか、授業での活用が習慣化していたかがわかるエピソードです。
先生たちが自覚できないようなわずかな変化でも、それがもたらす効果はとても大きい。ある自治体では、ICT活用を始めたことで、全教科で全国平均点を上回るまでに伸びたそうです。学力向上という成果がハッキリと現れ始めています。また、ICTで効率的に習得することで活用の時間を確保し、自分の考えを述べたり、ディスカッションする等の言語活動が充実するなど、今の学習指導要領の基本理念をしっかりと実現できています。

「教育の情報化」の“格差”が、深刻化している

 国が4000億円もかけて『ニューディール政策』でICT機器を整備したのは、現在の学習指導要領を実施するにはICTが不可欠だからです。しかし、このことをよく理解しないまま、整備を行わなかった自治体が存在したことはとても残念なことです。
ICT環境がないままでは、いくら先生方が頑張っても、今までの授業方法では時間が足りません。その結果、習得に時間がかかって活用の時間が取れなかったり、活用の時間を取るために習得がおろそかになることも起きています。現在の学習指導要領に対応できないのです。一方で、ICTの必要性をきちんと理解して授業で活用している自治体は、学習指導要領に対応した教育を行えるとともに、学力向上の成果も出始めています。両者の差は広がるばかり。深刻な“格差”が生まれ始めています。
さすがに焦って、遅ればせながらICT環境の整備に取り組む自治体も見られます。一方で、「予算がないから」と理由をつけて、未だにICTの整備に取り組まない自治体もあります。お金がないというなら、なぜ国が補助金を出してくれた『スクールニューディール政策』を利用しなかったのですかと、問い詰めたいところです。
日本には約46万教室もあり、残念ながらまだ全教室にICT環境を整備するには至っていません。国としては、全教室に電子黒板や大型テレビ、プロジェクタなどの大型提示装置、パソコンや実物投影機などを整備したいと願っています。そのため、国は様々な手立てを考え、実施しています。
自治体に交付している地方交付税で、ICT環境の整備費を補助しているのもその一環です。平成24年度には、「教育の情報化対策」として1673億円が交付されました。学校図書館の整備費として積算されているのが約200億円であることと比べると、教育の情報化対策にどれだけ力を入れているかがよくわかります。
地方交付税は地方自治体に交付され、どう使うかは自治体に委ねられています。
そこで、教育委員会が予算要求しやすいように、「教育の情報化を進めるために、国は地方財政措置として1600億円もの補助金を交付している」ともっとアピールしてはどうかという意見も出ています。国としての整備目標値を設定し、各自治体ごとに整備達成度を報告させ、公表してはどうかといったアイディアも出ています。しかし、こういうやり方は「地方分権」に逆行しています。あくまでも、自治体自身が必要だと判断して、自主的に、積極的に取り組んでくれるのが一番いいのです。
しかしながら、今のままでは、自治体間の「格差」がどんどん広がってしまいます。国の方針や現在の学習指導要領の方向をきちんと理解している自治体は、ICT環境の整備に早くから取り組み、教材もそろえ、研修も行い、活用事例やノウハウなどの研究や共有も進めています。その一方で、まだ環境整備すらしていない自治体もあります。このままでは、「格差」問題は深刻化するばかり。この格差問題の解決は、今後の重要課題です。自治体や教育委員会の方々には、今一度よく考えてほしいところです。

「教育の情報化」が抱える“現在”の課題

 課題は他にもあります。一つは、ICT機器の更新です。『スクールニューディール政策』で導入されたICT機器は、この先、永遠に使えるわけではありません。数年先には、更新する必要が出てきます。そのときに、自治体がきちんと更新してくれるかどうか。国としては地方財政措置で更新のための予算を積算するでしょうが、自治体がきちんと更新を行ってくれるかどうか、一抹の不安があります。
次に、整備したICT機器を、教師がきちんと使っているか、効果は出ているかを検証する必要があります。たとえば、高機能・高額なICT機器を少数導入したようなケースでは、思うような効果が出ていません。ICTが得意な先生しか使えないような機器を入れても、日常的に使えず、長続きしないのです。
一方、実物投影機やプロジェクタなど誰でも使えるシンプルなICT機器を導入したケースでは、効果が出ています。誰でも使えるシンプルなICT機器は、日常的に使いやすく、持続しやすい。学習は、毎日コツコツ続けることが肝心です。たった1回の高度なICT活用よりも、毎日数分の簡単なICT活用を地道にやる方が効果があるのは明白です。
しかし残念ながら、すべての教師がこのような実践をできているわけではありません。ICT環境が整っていない自治体がまだありますし、環境は整っていても研修がうまくいかずに正しい実践方法が伝わっていないことも多い。今後は、正しい使い方の普及に努める必要があります。

2020年以降、「教育の情報化」はどうなる?

 次の学習指導要領は、2020年頃に始まります。2020年頃のICTがどうなっているか、ハッキリと予測はできませんが、想像はいろいろとできます。
自分の意見をみんなに発表して議論する活動がなくなるとは考えられないので、電子黒板のような大型提示装置は必要とされ続けるでしょう。ノートやワークシートに鉛筆で手書きする活動が完全に消えるとも思えないので、実物投影機も今より発展した形で教室に常設されているでしょう。
一番変わるのは、子どもが持つICT機器でしょうね。子ども一人ひとりがタブレットPCなりノートPCなり、なんらかの情報端末を持ち、その端末の中にはデジタル教科書や資料集、図形ソフトやノートパッドなどのツールが入っていて、子どもはこの端末で教科書を読み、考え、まとめ、発表する。情報端末が、鉛筆や定規のような“文房具”として使われる。そんな時代が来るかも知れません。
 そうなると、そこでも新たな課題が出てくることが予測されます。たとえば、一人1台の情報端末のコストを誰が負担するのか。国なのか自治体なのか、それとも各家庭なのか。教科書が完全にデジタル化されたら、それをどうやって子どもに配布するのか。今は紙の教科書を無償配布していますが、子ども用デジタル教科書の費用は誰が負担するのか。情報端末でノートを取るようになれば、ノート指導も変わるべきか。そもそもこの情報端末という“文房具”の使い方をどの教科のどの時間で教えればいいのか。想像しただけでも、さまざまな課題が頭に浮かびます。

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“学習指導要領を取りまく昨今の情勢”(作成:堀田 龍也 )

予測不可能な“未来”のために、今から検証しておく必要がある

 とはいえ、約十年先の未来を正確に予測することは不可能です。ICTの世界は、日進月歩ならぬ“秒進分歩”。十年後どころか、一年後にすらどんなICT機器が普及しているかもわからない状況です。
 しかし、予測できないからといって、手をこまねいて待っているわけにはいきません。2020年頃にはどんなICT機器が教育現場に入り、どんな授業が行われ、どんな課題が出てくるかを、今から研究しておかなければ、2020年頃から実施される次の学習指導要領を作れないからです。だからこそ、今あるICT機器と技術で、どこまでできるか、どんなことが起きるか、課題は何かを探るための実験的なプロジェクトとして、『フューチャースクール推進事業』がスタートしたのです。
 総務省が行っている『フューチャースクール推進事業』は、2020年以降の教育を考えるための実証実験。情報通信技術面の実証実験を担当し、たとえば一人1台のタブレットPCを使うとき、無線ネットワークや学校の電源容量は耐えられるのか、スムーズに使えるかなどを検証しています。
 一方、一年遅れで文科省がスタートさせたのが、『学びのイノベーション事業』です。この事業では、教育内容や指導方法についての研究が施されます。「個別学習」「協働学習」「一斉授業」をどう組み合わせて授業を作っていくか。それぞれの良さを引き出すには、どんな場面や学習内容が適しているか。こういったテーマで研究を進め、新しい授業をイノベートしていくことを目的としています。
 『学びのイノベーション事業』では、フューチャースクールから、タブレットPCを使った授業実践事例を何百と吸い上げ、子どもや教師へのアンケート調査なども行い、集まった情報を分類し、分析しています。『学びのイノベーション事業』の中には、「小中学校WG」、「特別支援教育WG」、「ICT活用の際の留意点に関するガイドラインWG」という三つのワーキンググループがあり、「小中学校WG」の中には、さらに三つの作業部会が設けられています。
 一つは、指導方法に関する作業部会。たとえばタブレットPCを使って協働学習を行う際の単元計画や展開例の事例を集め、分類し、パターンを抽出しています。その成果は、この秋ぐらいに公表される予定です。
 フューチャースクールへの調査と分析を行っている作業部会もあります。授業後の子どもへのアンケート調査や、指導にあたった教師の所感などを集計するとともに、学力調査も行って指導と学力との相関関係を研究しています。
 そして三つめの作業部会が、デジタル教科書について詳細に検討している部会。デジタル教科書の定義は『教育の情報化ビジョン』にも示されていますが、とても広範囲で曖昧です。現在は、計算ドリルのような教材や、タブレットPC上で使うノート機能などをすべてひっくるめて「デジタル教科書」と呼ばれているので、わかりにくくなっており、混乱を招いています。そこでこの作業部会では、デジタル教科書の機能整理なども行っています。

「フューチャースクール」は、今後どうなる?

 小学校のフューチャースクールは、当初の計画通り今年度で終わります。中学校と特別支援学校のフューチャースクールは今年度が2年目でやっと本格的に実践が始まったところですが、こちらも計画通り来年度で終わるでしょう。今後は、同様のプロジェクトを国が継続して行う可能性も否定はできませんが、都道府県や市町村などの自治体が独自に取り組むケースが増えてくるのではないかと私は見ています。
 たとえば佐賀県教育委員会は、36の県立高校の全生徒に、タブレットPCを配布することを決定。2013年度の新入生からの導入を予定しています。また、情報通信企業が、学校に情報端末を提供し、授業での実践を行うプロジェクトも目立ち始めています。今後は自治体や企業が主体となって、整備を進めていくことになるかも知れません。
 そのとき、それぞれが一から取り組んだのでは、たいへんな労力と時間とお金がかかります。今後取り組む自治体がスムーズにスタートできるように、モデルを作っておこうというのが、『フューチャースクール推進事業』や『学びのイノベーション事業』の目的でもあるのです。
 企業の参加が盛んになれば、大きなメリットもあります。今のフューチャースクールで決定的に不足しているのが、タブレットPCを利用して協働学習で使う教材。今世に出ているデジタル教材の多くは、一斉授業用のもの。たとえば「フラッシュ型教材」も、一斉授業で効果があるように作られています。企業がフューチャースクールのようなプロジェクトを積極的に推進・関与するようになれば、そのノウハウで教材が開発され、ブラッシュアップされたものが商品化されるでしょう。そうなれば、全国の学校が恩恵を受けられます。

フューチャースクールですでに明らかになってきたこと

 フューチャースクールで明らかになったことの一つに、「子どもはタブレットPCにすぐ慣れる」ことが挙げられます。子どもは、持たせればすぐ操作できるようになるのです。しかし、ただ操作できるだけではダメです。タブレットPCは学習のための道具なのですから、学習の道具として活用できる力を身に付けさせる必要があります。
 たとえば、タブレットPCを使って、調べ、まとめ、わかりやすく伝える力。「情報活用能力」と言っていいでしょう。こういった情報活用能力は、きちんと教えないと身に付きません。タブレットPCをただ触らせているだけでは、会得できないのです。
 もし、2020年以降に子ども一人1台の情報端末を持つ時代が来るなら、「情報活用能力」をどうやって身に付けさせるかを考えなければなりません。教育カリキュラムはどうあるべきか。何年生でどんなことを学び、どんな力を身に付けることを目標とするか。どの教科で教えるのか。新たな教科を作るのがよいのか。「外国語活動」のように「情報活用活動」のような時間を設けるのか。だとしたら、高学年だけでやるのか、1年生からやるのか。こういったことを、今後議論していく必要があります。

次の学習指導要領に向けて「情報活用能力調査」が予定されている

 次の学習指導要領で「情報活用能力」をどう取り扱うかは、中央教育審議会で審議され、決まります。次の学習指導要領のための中教審は、2015年頃に立ち上がると予想されますので、それまでに、今の子どもたちの情報活用能力の現状を把握しておく必要があります。
 そこで、文部科学省では、情報活用能力に関する調査を行うことを決定。「情報活用能力調査に関する協力者会議」をこの6月に立ち上げました。私も、委員としてメンバーに入っています。今年度中に予備調査を行う予定で、現在、問題例の作成に取り組んでいるところです。予備調査実施後は調査で使用した問題例を公表した後、来年度中に本調査を実施する見込みです。
 この調査は、コンピュータ上で行われます。調査問題が入ったタブレットPCを子どもたちに配布し、タブレットPC上で解いてもらうのです。回答だけでなく、問題を解くためにどういう操作をしたかまで記録が残る仕組みです。
 たとえば、「このブログを読んで、筆者の考えと客観的な事実とを分類しなさい」と問うたり、数枚の統計グラフとそれについて述べたブログ記事を提示し、「ブログの内容が正しいかどうかを考えよ」「ブログの筆者は、どのグラフを見てこの記事を書いたのか答えよ」といったような問題が考えられます。情報を正確に読み解き、取り出し、整理し、わかりやすく伝えられる力を問う問題になると予想されます。
 海外では、米・英・豪などで、似たような情報活用能力調査が行われていますが、そういった海外の事例も研究して、日本ではどういう調査が望ましいかを検討されているようです。
 平たくいえば、これは情報活用能力に関する“学力調査”です。「こういう問題を解けることが、情報活用能力があるということ」という基準を示す。「これから大事になる情報活用能力とは、こういう力です」というスタンダードを世に示そうとしています。
 ですから、この「情報活用能力調査」が及ぼす影響やインパクトはとても大きい。「全国学力・学習状況調査」でも、その問題を見て多くの先生方が「知識とは、こういうことか。活用できるとは、こういう問題を解けることなのか」と、納得しました。さらに保護者や塾は「こういう問題を解ける子どもにしよう」と教育方針を定め、一般社会も「日本の教育は今後こういう力を育もうとしているのか」と理解するなど、影響は広範囲に広がりました。同様のことが、この情報活用能力に関する調査でも起きるでしょう。賛否両論、さまざまな議論が沸騰するのは間違いありません。すでにかなりの注目が集まっており、「情報活用能力調査に関する協力者会議」の第1回会議には、傍聴希望申込みが殺到したのも、そのあらわれと言えるでしょう。
 この調査で、現在の子どもたちの情報活用能力の実態が明らかになります。「今の子どもはこういう情報活用能力はあるけれども、こういう力が弱い」という現状が浮き彫りになります。その結果を分析し、なぜこの部分の力が弱いのか、今後どうすればこの力を伸ばせるか。この力が弱いのは、どの教科でもきちんと教えてないからではないか。では、新たな領域や教科を作って教えてはどうか、という議論が行われ、それが次の学習指導要領に影響していくのです。

“土台”をしっかり固めてこそ、“教育の情報化”が築ける!

 「日本の教育のICTは、遅れている。シンガポールや韓国やイギリスは、今やこんなすごい実践をしているのに、日本は大丈夫なのか?」と危惧する声をよく耳にします。フューチャースクールをめぐる議論でも、「呑気に実験している場合か。今すぐ導入しなければ世界に追いつけない」という焦りにも似た声が聞こえてきます。
 確かに、日本の教育は、ICTの導入では遅れています。しかし、だからといって、先を行く諸外国と同じ実践を今すぐ日本でやろう、一足飛びに先進国に追いつこうというのは、少々乱暴な考えです。諸外国は確かに、ICTの利活用で先進的な実践を行っています。でもそこに至るまでに、地道な環境整備と実践を積み重ねてきているのです。
 たとえば韓国では、一人1台のタブレットPCを授業で使い始めていますが、そこに至る前に、全教室にプロジェクタや実物投影機を導入し、研究と実践を積み重ね、教師も子どもも慣れ親しんで必要な指導力や情報活用能力を身に付けた上で、一人1台のタブレットPCに進んだのです。きちんと段階を踏んできたからこそ、今の取り組みが可能なのです。
 フューチャースクールでも、授業の前半はタブレットPCで個別学習を行いますが、授業の後半は電子黒板を使って意見を共有し、議論を行っています。手書きのノートやワークシートを、実物投影機で映して共有する場面も多々あります。電子黒板やプロジェクタや実物投影機といったICT環境が土台にあってこそ、一人1台のタブレットPCが活きる。タブレットPCだけを入れても効果はないのです。
 電子黒板や実物投影機などのICT環境を国が整備したのは、今の学習指導要領のためだけではなく、一人1台の情報端末が実現するかもしれない“次の学習指導要領”のためでもあるのです。今の学習指導要領で必要なICT環境がまだ未整備なのに、一足飛びにタブレットPCを入れようとするのは、土台も作っていない土地にいきなり家を建てようとするようなものです。
 私が今危惧しているのは、電子黒板や実物投影機といったICT環境を整えてもいない自治体が、「今はフューチャースクールが最先端のトレンドらしい。うちも実物投影機や電子黒板は後回しにして、一気にタブレットPCを入れてみるか! そうすれば遅れを取り戻すどころか、他の自治体より先に 行ける!」などと考えはしないかということです。こんなことをしても、うまくいかないことは明らかです。
 日本が今やるべきことは、電子黒板や実物投影機といったICT環境をしっかり整備すること。そして、教師も子どもも、これらのICTに慣れて経験を積むこと。そして、ICT環境の格差が子どもの学力格差を生むような状況を解消することです。
 しっかりと土台を築いておけば、“次の学習指導要領”でどのような情報端末が入って来ようとも対応できるようになります。“未来”を明るいものとするためには、まずは“今”できること、すべきことを行いましょう。

玉川大学教職大学院  堀田 龍也 教授